遺愛ニュース

IAI News

IAI NEWS

  1. Home
  2. 遺愛ニュース
  3. お知らせ
  4. 未来大学:美馬先生、北星女子中高:浅里校長、遺愛女子中高:福島校長との対談『女子教育が社会を救う』

未来大学:美馬先生、北星女子中高:浅里校長、遺愛女子中高:福島校長との対談『女子教育が社会を救う』

お知らせ

10月1日 座談会 『女子教育が社会を救う』

出席者:公立はこだて未来大学 システム情報科学部教授 美馬のゆり先生、遺愛女子中学校高等学校校長 福島基輝先生、北星学園女子中学高等学校校長 浅里慎也先生

司会進行:コアネット教育総合研究所 副所長 川畑浩之
_____________

川畑:本日のテーマは、『女子教育が社会を救う』ということなのですが、実際には少子化の流れの中で、女子校はどんどん減っています。首都圏でも一定の数の女子校が共学校になっています。北海道においては、26校あった女子校が6校にまで減少したと聞いています。しかし、今の時代だからこそ、女子校による「女子教育」に、大きな意味があるのではないかと思いまして、今回の座談会を企画いたしました。ご自身も中学高校、女子校で学び、『理系女子的生き方のススメ』などの著書がある美馬先生、函館の遺愛女子中高の福島先生、札幌の北星学園女子の浅里先生のお三方にお集まりいただき、北海道という地域の問題も含め、女子教育について熱く語っていただければと思います。

美馬:私は昨年9月から、カリフォルニア大学バークレー校に客員研究員として約1年間滞在していました。その間、書店などを見て気がついたのが、児童書のラインナップが日本と全然違うということです。私が訪れたアメリカ国内の地域の書店やオンラインの書店を見ると、子供のためのコーナーに『Girls Can!』『歴史を作った女性100人』『Good Night stories for Rebel Girls』といった本がたくさん並んでいます。書店にどういう児童書が並んでいるかというのは、その社会が子供にどういう本を読んで欲しいか、どう育って欲しいかの表れだと思うのですが、日本に帰ってきて大型書店に行ってみると、まぁ50年前かと思うような品揃えなんですよね。女性の伝記は相変わらずヘレン・ケラーにナイチンゲール。さらにマリー・キュリーではなくキュリー夫人。アメリカの児童書は、赤ちゃん向けの絵本からして全然違っています。女性や黒人のスーパーヒーローが出てきたり、男の子向けに『Pink for Boys』といった本があったり。私たちが日常生活の中で感じる違和感に対し、声を上げよう、よりよい世界を作ろう、という本がたくさん並んでいるんです。こうした本の何冊かは邦訳されていますが、日本では書店の目立つところに置いてありません。アメリカでひと通り購入してきましたので、ぜひ手に取ってご覧ください。

福島:どれも興味深いですね。遺愛の図書館にこういった本のコーナーがあれば、ベストセラーになると思います。うちは朝読書をやっていますが、きっと大人気になるでしょう。将来の職業にどういう選択肢があるのかといった中高生向けの本のほとんどが、男子向けに書かれているのが現状ですから。

浅里:アメリカ社会が、さまざまな違和感に対して本にして訴え続けているというのは、非常に考えさせられますね。日本は、現状に都合のいいように、という力が働きがちです。私が女子教育で大切にしたいのは、女性だってできるんだよ、自信を持っていいんだよ、と生徒に伝えることなんです。社会の成熟のためには、女子の力を開花させることが必要です。そのことに、男女共に気がつかなければなりません。女の子が自分の可能性を見つけるために、こうした本がたくさんあるのは素晴らしいですね。

福島:ただ、こうした本のコーナーが共学の学校にあったとしたら、生徒たちは読みたがるでしょうか。男子学生は読まないだろうし、女子も手に取りにくいような気がします。

美馬:男子の目があると違いますね。女性の権利を謳ったような本を読んでいる女子を、男子はどう思うでしょうか。男子が何も言わなくても、女子の側に、こんな本を借りている女子と思われるのは嫌だという気持ちが湧いてしまうかもしれない。そうしたことを考えると、思春期に別学で学ぶということには、すごく大きな意味があると思います。ジェンダー平等が進んだ海外でさえ、男子がいると女子は科学実験やリーダーシップ教育で一歩引いてしまうという現象が問題になっています。そのため、そうした教育に特化した女子校が作られるケースもあります。

福島:遺愛に高校から入ってくる生徒は、小学校や中学校を共学の公立校で過ごしている場合がほとんどです。入学する時に女子校であることに抵抗を感じたという生徒は多いのですが、卒業間際になると、例年9割以上の生徒が、女子校で良かったと言います。その理由として挙げられるのが、素の自分でいられる、何をやっても受け入れてもらえる、男子の目を気にしないで済む、恥ずかしがらずに勉強に打ち込める、といったことです。

美馬:勉強や進路に関することで、男子が女子の目を気にすることはそれほどないと思いますが、女子は違うんですよね。

福島:共学校でヒロインになるのは、可愛い、スタイルがいいといった生徒なんですね。それが、女子校だと全然違う。容姿なんて関係ないんです。その生徒の持つ人間性で評価される。

浅里:小学校5年くらいから、女子でありながら女子である自分が好きになれない、自分に自信が持てない子も出てきます。私の学校のある生徒は、小学校の時、女子はコソコソ話ばかりするし、男子の前でぶりっ子する子がいるし、嫌でしょうがなかったそうです。それが、女子中に入ってみたら、ぶりっ子というわけではなく、本当に反応がかわいらしいタイプの子がいるんだと知って、そういう子がいたっていいし、そうでなくたっていいんだと気づいたというんです。私は、みんなそれぞれ、そのままで良いんだよ、と言ってあげたいと思っています。

女子校の長所

福島:女子校の良さは、女子に合わせた教育ができるという点もあります。遺愛では50%から60%が理系に進んでいます。医療系が多いのですが、工学系に進学する子もいます。一般的に女子は理数系が苦手というイメージが強いですが、授業の進め方にも問題がある。女子の特性に合わせた授業を行うことによって、理系科目が得意になる生徒は多いのです。

美馬:私が訪れたハーバード美術館では、女性アーティストを集めた企画展をやっていました。そこには、こういう企画展をしなくても済むような社会になることが目標だと書かれていました。女性であることを意識しなくてもいいくらい、「公平」や「正義」の考え方が根付いた社会であるのが理想だからです。でも、女子校というのは、なくなった方がいい過去の遺物ではないわけですね。もちろん、共学より女子校の方が誰にとっても絶対的に良いというわけではなく、選べることが大切だと思います。

川畑:学校を選ぶとき、女子校にするかどうか、保護者、特に父親は迷うのではないでしょうか。なにしろ、自分では経験したことのない世界ですから。私だけかもしれませんが、つい、絶対に共学がいいとか、女子校の方がいいとか、どちらかに決めつけてしまいがちです。

福島:パパはあまり口を出さないほうがいいかもしれませんね。(笑)
ただ、12歳から18歳、その中でも15歳から18歳の3年間というのは、人生の中でも激動の時期なんですね。悩んだり落ち込んだりすることも多いその時期に、あなたはあなたでいいんだよと認めてくれる環境があるかどうかは大きい。そして、そういう環境の中でできた友だちは、将来社会に出てからも本音で話し合える間柄になります。この時期になんでも話せる友人を作ることは、人間として非常に大切なことだと思います。

浅里:どれだけ社会が進んでも、男子と女子がいることには変わりありませんから、女子校という選択肢はあり続けてほしいと思います。男子が社会を生きていくことも簡単なことではないと思いますが、今もまだ、社会で女性が男性と同じ役割を担おうとすると、二倍、三倍の努力が必要だということを、男性にも知って欲しいですね。

美馬:生まれながらにマジョリティである男性は、自分がいかにその特権を享受しているか気付かないんですよね。

浅里:マイノリティであることを日常で体験している女性が社会に進出することは、必ず社会の成熟に繋がると思います。

美馬:男女ということ以外にも、マジョリティの問題というのはあります。東京で生まれ育った私自身、大学進学をしないという選択肢のない環境で育ちました。家では何紙も新聞を購読していたし、それについて家族で話し合ったりしました。理系学部に進学する時も、女なのにと止める人は誰もいませんでした。20年前、この大学が設立するのにあたって家族で函館に移住し、それがどれだけ特権を享受していることだったかに気づきました。函館市は北海道で人口第三位の都市ですが、大学進学率は低く、特に女子には厳しい環境です。他県から来ている女子学生からも、うちの大学に進学するのに親に土下座して頼まなければならなかったと聞いたことがあります。だからこそ、みんなが自由に選べる環境にしていきたい。

福島:世の中が変わってきていることを知らない大人は多いですね。

美馬:2022年、日本はジェンダーギャップ指数の総合スコアで世界116位(146か国のうち)ですからね。教育に関する項目の数値は高いのに、他の要素で下がっている。つまり、女性は学歴があっても活躍できていない社会だということです。

川畑:昨今の世界情勢を見ても、女性の働きがいかに大事かということを感じます。ステレオタイプかもしれませんが、命を守っていこうという気持ちは、女性の方が強い気がします。

浅里:最近のことですが、うちの生徒がウクライナでの戦争に心を痛め、何ができるだろうかと考えた結果、ウクライナの象徴でもあるひまわりを校庭に植えることにしました。校庭いっぱいに2000本のひまわりを植え、学校公開日に来校者に花を販売し、売上をウクライナに寄付をする予定です。毎日のように流れる動画ニュースから、子供たちや女性が戦争の被害を受ける姿を見て、こういう力が自然に沸き上がったのです。本当にすごいと思います。

美馬:新型コロナに関しても、各国の女性首長の活躍が目立ちました。世界が変わり始めた今、どういう未来を望むのか、中高生の間にいろいろなものを見て、考えてほしいと思います。

川畑:残念ですがお時間が来てしまいました。非常に有意義なお話ができたと思います。本日はありがとうございました。